アイデアホイホイ〜3分のヒマつぶし

入れて出す、3分間・・・アイデアを、だよ?

通りすがりに失礼をば

義妹の結婚式の日、僕は午前2時に八伏を出発し三重に向かった。 こんな時間に人通りがあるわけもなく、ましてや八伏、田舎である。 快調に飛ばしていた。 すると横断歩道、まさか人影が見えた。 白いハシゴの二本分ぐらいだったと思う。 左の道脇から変な感じで上半身だけが飛び出ている。 急ブレーキ。 (なんや?なんなんや?) (「頭だけ轢いてください!」って頭下げとるんか!?) (どんな神経やねん。自分の顔が嫌いなんか?) 思考がやたらと早く回るぶん、景色がゆっくりと通り過ぎていく。 (間に合わん) と思った瞬間、人影はヒュイっと面を上げた。 ブレーキ痕をハシゴに残しつつ人影を横目に見たとき、 僕は度肝を抜かれた。 バッと後ろを振り返ったとき、それは横断歩道の真ん中で一時こっちを眺めてから、一時停止早送り、消えるように走り去っていった。 その辺りの主かと思わせるほど立派な鹿であった。 あまりのビックリ体験。 その日もし義妹にスピーチを頼まれたら、話出しは決まったようなものだ。 「鹿とは神の使いだそうです。  なぜこんな話をするかといいますと、  嘘みたいな話ですが、今朝、鹿に遭遇いたしました。  たぶん今日の私は、神の使いに委託された、神の使い代理。  初めまして神の使い代理、千石弥一です。」 この日曜に、アフロディテさんと友だちとで二度目のマジックアワーを観に出かけた。 柳沢慎一さん扮する高瀬允の名言、 「マジックアワーを逃したとき、どうすればいいか知っているかね?  簡単なことさ。  明日を待てばいいんだよ。」 「こう見えても本番の声がかかると足が震えてね。  …  僕がスクリーンの中で立派に見えるとしたら、  それはスタッフのおかげさ」 という言葉を繰り返しつぶやき、身もだえしながら洋麺亭に昼ご飯を食べにきたときだ。 バックで駐車した直後、突然ディテさんが叫んだ。 「あっ!」 すぐさまディテさんは下車し、後ろに流れている用水路に走った。 ネコがひっかかっている。 人が水路に下りるための足場であろう、側面にコの字で突き出た輪っか部分から上半身だけを出し、三毛猫は下半身を水に揺らしていた。 浮き輪で救助を待っている水難者みたいな感じで、それ以上は這い上がれないのであろう。 三毛はひっかかったまま力なく鳴いていた。 水に濡れているせいか痩せ細って見える。 残念ながらアフロではない。 一瞬『写真に撮りたい』と思った衝動を僕は抑えた。 理由はいうまでもないが、アフロディテさんだ。 もし撮ろうものなら、瞬時に彼女の冷たい視線で射抜かれ、石にされるのは目に見えている。 少なくとも三毛猫の写真と一緒に、水路に落ちた僕が携帯のライブラリーに収められるのは間違いない。 三毛は助けられ僕は流される、めでたしめでたし。 そんなシナリオは避けたい。 ネコ救助を最優先にした。 昨日から降り続く雨に水路が増水している。 ひっかかりながら水をゲホゲホ吐いているところを見ると、相当流されてきたのかも知れない。 よくそこにひっかかれたものだ。 そしてよくディテさんは見つけたものだ。 「服が汚れるから代わって」と僕がいうと、 「引き上げられそう?」助けようとしていたディテさんがどいた。 一番心配なのは、捕まえられまいとして逃げ、三毛がまた水の流れに飲み込まれてしまうことだ。 僕は三毛の進行方向を右手で防ぎつつ、噛ませつつ、血を流しつつ、「ここで『イタっ!』なんて叫んで動揺してたら男の子じゃないよ」と自分に言い聞かせつつ、左手で何とか捕まえ両手でゆっくりと引き上げた。 仲間内で小さな歓声が上がる。 本当は写真に撮りたかったのだけど、なんていえない。 引き上げた瞬間の三毛はピョーンと僕から二馬身ほど逃げ、こちらをうかがっていた。 ご飯を食べてから戻ってきてみると、三毛がまだそこにいた。 濡れた体を雨風にさらしながら、遠くから見ても判るくらい震えている。 「病院に連れて行かなくていいかな?」 ディテさんが疑問形で訊くときは、八割がたそうしたいと心が決まっている。 病院に連れて行くだけならノラに戻れるだろう、そう思い捕まえに行こうしたが三毛はそれを察したのか、またピョーンと逃げ、遠くの方で僕をにらみつけた。 三毛がいた場所のまわりに、泥にまみれたウンコと、ドブの草を吐いたような跡がが残っているのを見て、「きっともう大丈夫だ」と確信した。 一日たった今日、車を運転していて急にネコが飛び出してきた。 急ブレーキを踏みつつ、道をわたり終えるネコを右目で追っていると、 ふと止まって、こちらを見つめていた。 「昨日の三毛や」 直観だ。 本当にそうなのかどうかは判らないが、顔のシャープな感じと睨んでくる目がズバッと昨日の映像と重なった。 それに、昨日の三毛だと思う方が素敵でいい。 突然の再会だ。 「よく会うわね」 ぐらいで、お礼を言いにきたわけではないだろう。 バックミラーをのぞくと、三毛はまだこっちを向いている。 嬉しくなって頭を下げ、またミラーのぞくと、三毛はいつのまにかどこかへ消えてしまっていた。


アフロ妹子 違うと思うわ アフロ猫 やっぱりそう思う? アフロシロキチ お礼ちゃうくて、 「助けられんでも大丈夫やってんけど  助けられたってん」って言いにきたんちゃう アフロ猫 ほんとネコって恥ずかしがり屋さん それにしても、よく場所がわかるもので アフロシロキチ ネコの霊感はすごいんやから なめてもらったら困るで アフロ妹子 いや、違う アフロシロキチ …ネコには霊感がない言うんかいな? アフロ妹子 今日の三毛は、昨日の三毛じゃないわ、きっと。 このあんぽんたんども。 アフロシロキチアフロ猫 ……